黒曜エーテル鉱
霧の海の地底でのみ産出する、通常のエーテル石より高密度の希少鉱石
霧の海の下層、霧と岩盤が交わる特殊な地層でのみ産出する希少鉱石。通常のエーテル石と同様の浮力を持つが、その密度は5〜10倍に達する。同体積あたりの浮力エネルギー量が格段に高く、通常のエーテル石数個分の効果を単体で発揮できる。
鉱石の表面は漆黒に近い暗色で、内部に青白い光脈が走っているのが特徴だ。磨き上げると宝石のような光沢が生まれ、非常に美しいため装飾品としても需要がある。しかし美観よりも浮力素材としての価値が圧倒的に高く、小指の先ほどの欠片が飛行船の積載能力を数トン増やすことができる。
採掘には霧の海を潜る必要があるため極めて危険で、霧魚との遭遇リスクも高い。正規ルートでは流通しておらず、採掘できるのは霧の商会と特定の密輸業者のみだ。天蓋議会はこの鉱石の存在を把握しており、採掘を独占しようとする試みを繰り返しているが、霧の商会の妨害と霧の海の地の利によってことごとく失敗している。
根の国連合はこの鉱石を「大地の血」と呼ぶ。採掘は大地を傷つける行為として禁止しているが、非公式に菌糸共生族が回収した欠片を研究用として保管しているという情報がある。
黒曜エーテル鉱の形成メカニズムは大落下研究院の最大の謎のひとつだ。通常のエーテル石は地殻の均一な条件下で結晶化するが、黒曜エーテル鉱は霧の海の独特な物理環境——エーテル石の浮力と菌糸ネットワークの引力が同時に作用する境界——においてのみ生成されるようだ。つまりこの鉱石は、世界が分断されていることそのものが生み出した産物なのだ。
天蓋議会の軍事部門は黒曜エーテル鉱を使った「超高度飛行艦」の開発計画を持っている。通常のエーテル石では維持できない高度まで上昇できれば、大落下の影響を受けない安全圏が確保できるという論理だが、大落下研究院はこの計画を「問題から逃げることはできない。大落下は空の高さに関係なく起きる」と批判している。
黒曜エーテル鉱の光脈は、所有者の感情に反応して明滅するという報告がある。怒りの時に強く輝き、平静の時に落ち着く——これが事実なら、単なる鉱石ではなく生体感応物質の可能性がある。大落下研究院は調査を進めているが、標本の入手困難が障壁となっている。