霧の端で

視点キャラクター: 空風待 ソラ

ソラが霧底島の端からエーテル石の異常を発見し、大落下の予兆を確信する物語の始まり。

霧の端で

霧が濃い。いつもの霧底島の朝だが、今日の霧は違う。粒子が逆方向に流れている。

私はエーテル石のセンサーを島の端に向けた。数値が揺れる。浮力係数が0.3%低下——昨日より、先月より、一年前より。数字だけを見れば誤差の範囲だ。でも私のセンサーは嘘をつかない。

「島が、沈んでいる」

声に出して初めて、自分が震えていることに気づいた。足元の岩盤を通じて、かすかな振動が伝わってくる。島の心臓であるエーテル石の鼓動が、ほんの少しだけ、弱くなっている。


霧底島の端は、天蓋諸島の中で唯一、空の下端を見られる場所だ。中空を見上げれば白い雲の裏面が広がり、横を向けば霧の壁、足元には——何もない。雲より下に島が浮いている、その事実を視覚として直接受け取れる唯一の場所。塩気を帯びた霧が唇に触れ、空気の重さが肺の底まで染み込む。いつもより湿度が高い。湿度の上昇は浮力層の薄化と連動することを、精錬師の教科書は教えてくれない。でも霧底島で育った私は、体で知っている。岩盤に掌を当てると、冷たく、ほんのわずかに湿っていた。エーテル石の鼓動が弱いとき、岩は周囲の水分を吸収し始める。鼓動の弱化と湿度の上昇が、二つ同時に起きていた。センサーの数字が正しいなら、この島はもう動き始めている——止まれない方向に。足元から伝わる微細な振動が、その事実を体で教えてくれる。岩の冷たさと湿りは、エーテル石の衰えを正直に映し出している。

上層島の精錬師たちは知っているのだろうか。いや、知っていて黙っているのだ。あの人たちにとって、下層島の沈降は「調整可能な変数」に過ぎない。でも変数の積み重ねがいつか限界を超えることを、精錬師なら誰でも知っているはずだ。

私はノートを開き、観測データを記録した。この数字を誰に見せるべきか。議会は動かない。精錬師ギルドは議会の下部組織だ。


観測ノートに数字を並べながら、一つの考えを打ち消そうとしていた。上層島の精錬師ギルドは、精錬師試験の採点記録から観測データの報告先まで、すべてを一元管理している。霧底島の沈降データが「誤差の範囲」として処理されたとすれば、それを決定したのもギルドだ。一人の判断ではない。組織として、意図的に。私が第4段階の試験に合格した年、担当官は「下層島出身者のデータは補正係数を適用」と報告書に書いた。補正——その言葉の意味を、今ならわかる。数字を「なかったこと」にする技術が、天蓋諸島の統治に根付いている。

なら、下を見よう。地面に近いことを、初めて武器にしよう。

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