エーテル通信球
エーテル結晶の対共鳴を利用した天蓋諸島の遠距離通信技術
同一の親石から切り出したエーテル結晶は、どれだけ離れていても微細な共鳴を示す性質を持つ。この「対結晶共鳴」を応用して開発された通信技術がエーテル通信球だ。
球形の容器に一対の共鳴結晶を格納し、片方に音波を当てると共鳴結晶が振動してもう一方に信号が伝わる仕組みだ。情報の伝達速度は光に近く、距離による遅延もほぼ発生しない。天蓋議会は各島の主要拠点にこれを設置しており、島間通信の主要手段として機能している。
ただし親石から遠すぎる位置や、霧の海の付近では共鳴が乱れる。根の国との正規通信には現在も風の橋ルートの伝令に頼っている部分が多く、天蓋議会の技術課題のひとつだ。
意外な応用例として、霧魚の体液がシグナルを増幅することが発見された。密輸業者はこれを利用して通常の通信球では届かない霧の海の内部でも機能する非合法通信網を構築しており、霧の商会の情報収集能力の高さの一因となっている。天蓋議会は霧魚体液の所持を禁止しているが、禁止が密輸を促進するという悪循環に陥っている。
エーテル通信球の制作には「石割り師」と呼ばれる専門職が必要だ。一つの親石から完全に対称な一対の子石を切り出すことが共鳴精度を決定するため、石割り師の腕は通信品質に直結する。天蓋諸島に現在認定を受けた石割り師は23名しかおらず、その希少性が通信球の高価格を維持している。
エーテル通信球には「傍受不可能」という特性がある。対となる二つの結晶以外は信号を受信できないため、理論上は盗聴が不可能だ。しかしラクエンの裏市では「第三の石」と呼ばれる傍受装置が出回っているという噂があり、天蓋議会の暗号部門が必死に調査している。
根の国連合との公式外交では、エーテル通信球を使えないため伝令が必要だ。この非効率さが危機時の意思疎通を遅らせる原因となっており、大落下研究院は霧の海を越えて機能する新しい通信技術の開発を最優先課題の一つとして挙げている。