霧の端で
視点: 空風待 ソラ
ソラが霧底島の端からエーテル石の異常を発見し、大落下の予兆を確信する物語の始まり。
霧が濃い。いつもの霧底島の朝だが、今日の霧は違う。粒子が逆方向に流れている。
私はエーテル石のセンサーを島の端に向けた。数値が揺れる。浮力係数が0.3%低下——昨日より、先月より、一年前より。数字だけを見れば誤差の範囲だ。でも私のセンサーは嘘をつかない。
「島が、沈んでいる」
声に出して初めて、自分が震えていることに気づいた。足元の岩盤を通じて、かすかな振動が伝わってくる。島の心臓であるエーテル石の鼓動が、ほんの少しだけ、弱くなっている。
上層島の精錬師たちは知っているのだろうか。いや、知っていて黙っているのだ。あの人たちにとって、下層島の沈降は「調整可能な変数」に過ぎない。でも変数の積み重ねがいつか限界を超えることを、精錬師なら誰でも知っているはずだ。
私はノートを開き、観測データを記録した。この数字を誰に見せるべきか。議会は動かない。精錬師ギルドは議会の下部組織だ。
なら、下を見よう。地面に近いことを、初めて武器にしよう。