第一均衡の崩壊
大落下の200年前に起きた、世界均衡を崩した歴史的大事件
大落下から遡ること約200年、天蓋と大地がまだひとつの世界として機能していた時代に発生した転換点。当時、世界のエーテル石は安定した均衡状態を保っており、天蓋は地上から一定の高さを維持していた。
しかし初期のエーテル精錬術が急速に普及し、エーテル石の採掘量が均衡点を超えたことで、世界の「浮力」が徐々に狂い始めた。当時の歴史書には「空が三指ほど高くなった」という記述が残されており、これが大落下の最初の前兆だったと考えられている。わずか三指の差が、200年後の世界分裂の始まりだったのだ。
天蓋議会の前身組織は均衡崩壊の事実を100年近く隠蔽し続けた。技術の普及を止めれば経済が崩壊するという判断があったとされるが、真相は不明だ。隠蔽工作の文書がフワレイ・アーカイブスで発見されたことが、現在の天蓋議会への不信の根拠のひとつになっている。
大落下研究院の最新報告によれば、現在も均衡の崩壊は継続中であり、放置すれば150年以内に第二の大落下が起きる可能性があるという。歴史は繰り返そうとしている。
第一均衡の崩壊の当事者たちが何を考えていたかは、フワレイ・アーカイブスの文書から断片的に読み取れる。隠蔽を主導した当時の首席議員の日記には「この秘密を公開すれば社会が崩壊する。沈黙は百年後の世代への贈り物だ」という記述がある。百年後、その世代は大落下を経験した。
この歴史的事実が現代に突きつける問いは重い。現在の天蓋議会は大落下研究院の警告を隠蔽しようとしている——これは200年前の繰り返しではないか。大落下研究院の主任研究員はこの問いを公開書簡に記し、両陣営の民衆に向けて発表した。書簡は天蓋議会によって「扇動的文書」として回収されたが、写しがラクエンの裏市で流通している。
菌糸考古学は第一均衡の崩壊の記録を大地の記憶の中に探し続けている。もし記録が残っているなら、当時どの程度の速さで均衡が崩れたかが計算でき、現在の崩壊速度との比較が可能になる。根の国連合はこの調査への協力を条件に、天蓋議会へある要求を突きつけているが、その内容は公開されていない。